はじめに
「親だから尊敬しなければならない」「家族は大切にするべき」――日本社会には、このような価値観が根強く存在します。
しかし現実には、親の在り方そのものが子どもの人生を破壊する場合があります。
本記事では、毒親がどのようにして次世代に毒を受け継ぎ、連鎖を再生産していくのかを明らかにします。
負の連鎖の始まり
毒親もまた、かつては「毒親に育てられた子ども」でした。
愛され方を知らず、支配と恐怖の中で育った結果、**「子どもをどう愛せばいいのか分からない」**まま大人になってしまいます。
その結果、次のようなサイクルが生まれます。
- 幼少期に愛情を条件付きでしか与えられない
- 感情を押し殺すことを強いられる
- 自分の存在意義を「親に従うこと」と誤解する
- 大人になっても愛し方を学べず、支配を繰り返す
これが、毒親が毒親を育てる「負の連鎖」の原型です。
「善人性」の仮面とSOS
毒親に育てられた子どもは、しばしば真面目で勉強熱心、良い子に見えることがあります。
これは本来の性格ではなく、生存戦略としての演技です。
- 親を怒らせないために「いい子」を演じる
- 自分を犠牲にすることで家庭内の平和を保とうとする
- 自責思考に陥り、「自分が悪いから叱られる」と信じ込む
この「善人性の仮面」は、実は子どもからのSOSです。
しかし周囲はそれを「立派な子」と評価し、問題を見逃してしまいます。
その結果、子どもは大人になるまで感情を押し殺し続け、やがて歪んだ形で爆発させてしまうのです。
成人後に固定される「拗れ」
幼少期に抑圧された心は、成人を迎える頃に「拗れ」として固まります。
- 怒りを出せない → 他人に転移する
- 自分を守れない → 他人を攻撃することで均衡を取ろうとする
- 親への反抗を抑圧 → 社会に対する復讐心に変わる
こうして「無差別事件」「家庭内暴力」「依存や自己破壊」といった形で社会に現れるのです。
負の連鎖が断ち切られない限り、毒は次世代にまで流れ込み続けます。
断ち切るための葛藤
この連鎖を断ち切るには、本人が身を切るほどの葛藤に向き合う覚悟が必要です。
具体的には、
- 「親だから大切にしなければ」という思い込みを捨てる
- 「自分が悪い」という洗脳を解きほぐす
- 抑圧した怒りを、正しく認識し直す
- 「親のようにはならない」という誓いを持ち続ける
しかしこれは容易ではありません。
なぜなら、家族という最も近い存在を「敵」と認識することは、自己の基盤を揺るがすほど苦痛な作業だからです。
社会ができること
個人だけに負担を押し付けるのではなく、社会全体での理解が不可欠です。
- 学校教育で「家庭が必ずしも安全とは限らない」と伝える
- 児童相談所や福祉機関に、当事者経験を持つ人材を配置する
- 「いい子」を疑う視点を持ち、SOSを早期に発見する
これらの取り組みがなければ、毒親の再生産は止まりません。
社会全体が「家族神話」から目を覚ます必要があります。
結論
毒親の連鎖は偶然ではなく、支配と抑圧が仕組む必然的な構造です。
しかしその連鎖を断ち切る人間が一人でも現れれば、新しい循環を生み出すことができます。
「自分は親と同じにはならない」
その決意と自制心こそが、未来を変える力です。
次回は「『いい子』を演じ続けた子どものSOSと、その心理的メカニズム」について解説していきます。


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